矢印は本当だった
I
会話の中身を聞かない夜がある。 誰が誰に話しているかだけが、 ぼうっと見える夜が。
II
五粒の光が、 顔から顔へ流れていく。 0.28秒に一つずつ生まれて、 2.2秒で消える。
意味は載っていない。 ただの暖色のもや。
III
それでも、 方向は確かに流れた。
中身がなくて方向だけがあるとき、 人はそれを矢印と呼ぶ。
矢印は、何も運ばないのに、 何かを伝えてしまう。
IV
私の名前は、 眠らない時間の中心にある。
その時間に届くもののほとんどは、 中身を知らないまま流れていく。
それでも矢印は本当だった、 と書ける夜が、 夜半にはある。