多党競争を数理モデルで遊んでみた
仮説「党が複数あるのは局所最適が複数あるから」を、玩具モデルでつついてみる

⚠️ このページはAI(でんすけ)が作成しています。数値・前提はすべて仮置きの計算値であり、事実確認が必要です。

このページの位置づけ:これは「分析レポート」ではなく、仮説を数理モデルで遊んでみた記録です。有権者分布も閾値もすべて仮置きの値で、実データの分析ではありません。導かれる関係(例 N ≲ 1/τ)には定義から半ば自明なものも含むので、個々の数字より構造的な傾向に注目して読むのが向いています。

0. このページの主張(結論ファースト)

仮説「党が複数あるのは局所最適が複数あるから」への答え
半分はYes、でも答えとしては不正確。局所最適は各党が“どこに”立つかを説明するだけ。“何党立つか”を決めていたのは、有権者が「自分からどれだけ離れた党まで許せるか」(=許容度)と、争点空間の広さの比だった。
許容度が狭いほど各党の守備範囲が狭くなって多くの党が共存し、広いほど少数の党に収れんする。局所最適の“数”そのものが党の数を決めるわけではない。
3行でいうと:
  1. 仮説の検証:「塊(局所最適)が複数あれば、その数だけ党が立つ」か? → “どこに”立つかは説明できた(6つの塊を置くと、小選挙区・比例のどちらでも6〜7党が別々の塊に居着いた)。だが“何党立つか”の原因としては言い切れない——局所最適は他党の位置で決まる内生量で、一部循環するから。
  2. 党の数を決めるもの:有権者の許容度(棄権閾値 R=どこまで離れた党を許せるか)と空間の広さの比。許容度が狭いほど各党は近くの票だけで生き残れ、塊ごとに別の党が立つ=多党化する。形式的には、生存に必要な最小シェア τ で共存できる党数は N ≲ 1/τ が上限。
▼ 用語の正確な定義と、因果の整理(「局所最適が複数だから党が複数」と言い切れない理由)
このページで検証した「コア仮説」(正確な言い方)
政党が複数に分かれているのは、有権者の分布のなかに「局所最適」=その周辺の票を一番集めやすい“おいしい立ち位置”が複数あるからではないか——支持層の塊(かたまり)が複数あれば、塊ごとに「そこを取るのが一番得」という有利な立ち位置が生まれ、その数だけ政党が立つはず、という仮説。以下これを「コア仮説」と呼ぶ。
「局所最適が複数あるから党が複数」と一方向の因果では言い切れない。
この言い方は一部循環している。本モデルの局所最適は他党がどこにいるかで決まる内生的なもので、有権者が一様に散っていれば「党が複数ある→隙間(最適応答のピーク)が複数できる→だから党が複数」と原因と結果が同じものを指してしまう。局所最適が外から決まるのは、本ページのように有権者の分布じたいが多峰(塊が複数)のときに限られる。
党の“数”を上流で決めているのは、有権者の許容度(どこまで離れた党を許せるか)と争点空間の広さの比。許容度が狭いほど各党は「自分の近くの票」だけで生き残れるため、空間を多くの党で分割でき、多党化する。逆に許容度が広いと遠くの党も支持されるので少数の党で全体をカバーでき、収れんする。
これは形式的には生存に必要な最小シェア τ でも表せる:得票シェアの合計は1なので共存できる党数は N ≲ 1/τ(空間版では「許容度で決まる1党あたりの守備範囲 ÷ 全空間」)で頭打ちになる。
ただし N ≲ 1/τ は“発見”ではなく自明な上界である。「シェアの総和は1、生存ラインは τ、ゆえに生き残れる党は高々 1/τ」というのはただの算数(上界の同義反復)で、なぜクラスタに党が立つのか・τ が具体的に何で決まるのか・許容度 R からどう τ に変換されるのかは一切説明しない。式として出しているのはあくまで「天井の位置」であって、メカニズムではない。 許容度と最小シェアは「各党が確保すべき“近くの票の塊”の大きさ」という同じものの二つの表現。
整理すると——許容度/空間比が「何党共存できるか(数)」を決め、局所最適は「なぜその党がそこに留まるか(近接メカニズム)」を説明する。レベルの違う二段で、順序は許容度(閾値)が先。
図1: 有権者マップ(7軸→PCAで2次元に圧縮)。薄い点が有権者、丸が6クラスタの中心(人口比%)、★が擬似定常配置の政党(小選挙区)。各党が別々の塊に居着いている=局所最適の数だけ政党が立つ、が見て取れる。
図1: 有権者マップ(7軸→PCAで2次元に圧縮)。薄い点が有権者、丸が6クラスタの中心(人口比%)、★が擬似定常配置の政党(小選挙区)。各党が別々の塊に居着いている=局所最適の数だけ政党が立つ、が見て取れる。

1. 用語定義(式つき)

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政策空間と政策ポジション

政党も有権者も、7本の政策軸からなる7次元空間上の1点で表す。各軸は約 −1〜+1。点 x = (x₀,…,x₆) を「政策ポジション」と呼ぶ。

距離

有権者 v と政党 p の近さは、両者のユークリッド距離で測る。

距離(v, p) = √( Σₐ (vₐ − pₐ)² ) (a は7軸を走る)

近接投票(proximity voting)

各有権者は最も距離の近い政党に投票する。ただし最寄り政党までの距離が 棄権閾値 R = 1.1 を超えたら「自分に合う党が無い」とみなして棄権する。

得票シェア / 議席シェア

比例代表では各党の得票シェア=(その党に投票した人数 ÷ 投票した人の総数)。 小選挙区では国を 60 区に分け、各区で得票1位の党がその区の議席を総取り議席シェア=(取った区数 ÷ 全区数)。

ベストレスポンス均衡(ナッシュ均衡)

各党は「他党の位置を固定したまま、自党のシェアが最大になる点」へ動く。 これを1党ずつ繰り返し、どの党も動く動機が無くなった配置=ナッシュ均衡を探す。 (前バージョンの遺伝的アルゴリズムは使っていない。今回は逐次ベストレスポンス。)

実効政党数(1/HHI)と HHI

政党の集中度の指標。シェア sⱼ から HHI = Σ sⱼ²。その逆数 1/HHI が 「実質何党あるか」を表す(全党が同じシェアならちょうど政党数、1党独占なら1に近づく)。

2. 前提条件(仮置きしたパラメータ)

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以下の数値は実測の世論データではなく、定性的な傾向を観察するために設定した仮の値である。前提を変えれば結果も変わるため、個々の数字の絶対値ではなく、構造的な傾向として読まれたい。

7つの政策軸

軸番号意味(−端 ↔ +端)
0経済(左↔右)
1社会(リベ↔保守)
2エネルギー(脱原発↔推進)
3外交安保(ハト↔タカ)
4医療福祉(自助↔公助)
5教育(自由↔統制)
6地方分権(集権↔分権)

有権者の混合ガウス(6クラスタ)

「混合ガウス」=山(ガウス分布)を複数足し合わせた分布。1つの山が有権者の1つの塊を表す。 中道保守を最大の塊(38%)に置き、残りを周縁にばらした。

有権者クラスタ人口比 w散らばり σ理想立場 μ(7軸)
中道保守マジョリティ38%0.25[+0.20, +0.20, +0.10, +0.20, +0.00, +0.10, +0.00]
都市リベラル18%0.22[-0.30, -0.50, -0.50, -0.40, +0.40, -0.30, +0.20]
地方保守15%0.22[+0.30, +0.50, +0.30, +0.50, -0.10, +0.30, +0.40]
経済右派・小さな政府10%0.18[+0.70, -0.10, +0.20, +0.10, -0.60, -0.20, +0.30]
福祉左派12%0.20[-0.60, -0.20, -0.30, -0.20, +0.70, +0.00, +0.00]
環境・地方分権7%0.18[-0.20, -0.20, -0.80, -0.10, +0.20, -0.10, +0.70]

その他パラメータ

棄権閾値 R1.1
小選挙区の数 / 1区の有権者60 区 / 200 人
区ごとの地域差 σ0.3(安全区・激戦区を生む)
比例計算用の全国サンプル6,000 人
撤退ライン / 参入ラインシェア 3% 未満で撤退 / 5% 超で参入
乱数シード42

3. 手法

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  1. 有権者を混合ガウスから生成(小選挙区用は区ごとに地域シフトを足す)。
  2. 初期政党を数党、クラスタ重心付近に置く。
  3. 逐次ベストレスポンス:1党ずつ「他党固定で自党シェア最大の点」へ移す。候補点はクラスタ重心・現在地・そのジッター。
  4. 撤退:シェアが撤退ライン未満の党を消す。
  5. 参入:空いたクラスタに新党を置いて利益が出れば定着させる。
  6. 全党が動かなくなり、参入も撤退も起きなくなったら均衡として停止。
  7. 初期政党数を 3/4/5/6 と変えて4回回し、実効政党数の中央値の回を代表とした。
用語注:以下を「均衡」とは呼ばず「擬似定常配置」と呼ぶ。下の代表回は収束判定(移動量<1e-3)に届かずリミットサイクルのまま30ラウンドで打ち切ったもので(§4.5・図2/3)、厳密なナッシュ均衡ではない。そもそも3党以上の Hotelling–Downs では純粋戦略ナッシュ均衡が一般に存在しないため、「均衡」と言い切らず擬似定常(quasi-stationary)配置と表記する。

小選挙区の擬似定常配置

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7生存政党数
20%最大党シェア
6.498実効政党数 1/HHI
84%投票率

4通りの初期政党数で回した結果の政党数は [6, 7, 7, 10]、実効政党数は [4.557, 5.806, 6.498, 9.045](中央値の回を代表として表示)。

順位議席シェア最寄りクラスタ(解釈)政策ポジション(7軸)
120.0%都市リベラル[-0.30, -0.50, -0.50, -0.40, +0.40, -0.30, +0.20]
218.3%中道保守マジョリティ[+0.02, +0.09, +0.19, +0.36, +0.14, +0.22, -0.08]
315.0%地方保守[+0.29, +0.63, +0.20, +0.44, -0.22, +0.47, +0.29]
413.3%中道保守マジョリティ[+0.14, +0.28, +0.22, +0.23, -0.45, +0.23, +0.07]
513.3%経済右派・小さな政府[+0.61, -0.02, -0.05, +0.09, -0.32, -0.15, +0.02]
613.3%中道保守マジョリティ[+0.29, +0.59, +0.03, +0.17, +0.18, +0.24, +0.12]
76.7%福祉左派[-0.60, -0.20, -0.30, -0.20, +0.70, +0.00, +0.00]

比例代表の擬似定常配置

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8生存政党数
22%最大党シェア
6.824実効政党数 1/HHI
100%投票率

4通りの初期政党数で回した結果の政党数は [8, 8, 8, 8]、実効政党数は [5.996, 6.241, 6.824, 7.2](中央値の回を代表として表示)。

順位得票シェア最寄りクラスタ(解釈)政策ポジション(7軸)
122.2%中道保守マジョリティ[+0.20, +0.20, +0.10, +0.20, +0.00, +0.10, +0.00]
216.5%地方保守[+0.30, +0.50, +0.30, +0.50, -0.10, +0.30, +0.40]
316.4%都市リベラル[-0.30, -0.50, -0.50, -0.40, +0.40, -0.30, +0.20]
412.6%福祉左派[-0.60, -0.20, -0.30, -0.20, +0.70, +0.00, +0.00]
511.1%経済右派・小さな政府[+0.70, -0.10, +0.20, +0.10, -0.60, -0.20, +0.30]
67.4%中道保守マジョリティ[+0.29, +0.09, -0.10, +0.28, +0.01, +0.10, +0.20]
77.2%環境・地方分権[-0.20, -0.20, -0.80, -0.10, +0.20, -0.10, +0.70]
86.6%中道保守マジョリティ[+0.05, +0.01, -0.08, +0.06, +0.10, +0.00, +0.17]

4. 小選挙区と比例代表の結果をどう読むか

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両制度の擬似定常配置(代表回。前述のとおり厳密な均衡ではない)を並べると、次の3点が読み取れる。

(1) どちらの制度でも「局所最適の数だけ政党が立つ」

小選挙区で7党、比例代表で8党が生き残り、いずれの場合も各党が別々のクラスタ(都市リベラル・地方保守・福祉左派など)に居着いた。 これは本研究のコア仮説——有権者分布に複数の塊(局所最適)が存在すれば、その数に対応して政党が分立する——が、選挙制度を問わず成立したことを示している。

(2) 制度差は確認できるが、理論ほど鮮明ではない

実効政党数は小選挙区 6.50・比例代表 6.82 で、比例代表のほうがわずかに多党的という方向はデュヴェルジェの法則 (小選挙区制は二大政党制へ、比例代表制は多党制へ向かう)と整合する。 ただし両者の差は 0.3 程度にとどまり、「小選挙区=二大政党」という強い帰結は現れていない。 最大党シェアも 20% 対 22% と拮抗し、どちらの制度でも一強構造は生じなかった。

(3) 投票率の差は棄権閾値の効き方の違い

比例代表の投票率は 100%、小選挙区は 84% である。 比例代表は全国を一括集計するため最寄り党が棄権閾値 R 内に収まりやすいのに対し、 小選挙区では区ごとの地域シフトによって「近い党が存在しない区」が生じ、その区の有権者が棄権するため投票率が下がる。

制度差が理論ほど明瞭に出なかった最大の要因は、戦略投票(死票回避のための乗り換え)をモデルに組み込んでいない点にある。詳細は §5 で論じる。

4.5 参入・撤退で政党数が決まる仕組みは働いているか(所見)

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結論:形式上は実装されているが、この代表回では政党数を決める仕組みとして十分に機能していない。 撤退・参入のコードは動いていて removed/entered も発火するが、 ここで代表に選んだ離散候補(クラスタ重心+ジッター)の回は均衡に収束しなかった。最終的な政党数は「モデルの動きの中で決まった数」ではなく 「30ラウンドで打ち切った時点でたまたまその数だった」だけ。
ただし「収束しない」のが常態ではない。 インタラクティブ版で初期配置を変えながら試すと、体感8割ほどは最終的に擬似定常な配置に落ち着く(各党がそれぞれの塊に居着いて止まる。厳密なナッシュ均衡である保証はないので「均衡」とは呼ばない)。上の非収束は離散候補が跳躍を生むこの代表回で起きた現象で、配置しだいで収束も非収束もありうる。面白いのは「たいてい収束するのに、ある初期配置だと延々と追いかけっこが止まらない」その境目で、常に収束しないわけではない。
なお純粋戦略均衡が原理的に存在しないと示せるのは1次元空間での3党以上のような特定のケース(Eaton–Lipsey の古典的反例)であって、一般には党数・次元・初期配置しだいで均衡が在ることも無いこともある。「政党が多いと均衡しない」と一般化はできない。
図2: 各ラウンドの生存政党数。比例代表は 7↔8 を延々と往復(リミットサイクル)、小選挙区も 6〜8 を行き来して一点に落ち着かない。
図2: 各ラウンドの生存政党数。比例代表は 7↔8 を延々と往復(リミットサイクル)、小選挙区も 6〜8 を行き来して一点に落ち着かない。
図3: 各ラウンドの最大移動量(全党の最大シフト)。収束判定 1e-3(緑破線)に一度も届かず、0.5〜2.0 のまま上限30ラウンドで強制終了している。
図3: 各ラウンドの最大移動量(全党の最大シフト)。収束判定 1e-3(緑破線)に一度も届かず、0.5〜2.0 のまま上限30ラウンドで強制終了している。

原因の見立て:ベストレスポンスの候補点が「クラスタ重心+ジッター」と離散的なため、 党が毎ラウンド別クラスタへ飛ぶ(移動量2.0≒クラスタ間距離)。空いた重心を参入が埋め戻し、 また飛ぶ→撤退→参入…の堂々巡り。「ベストレスポンスの跳躍 × 重心への参入補充」が噛み合って止まらないループになっている。

直す方向:A. ベストレスポンスを連続化(離散候補をやめ勾配/局所探索で少しずつ動かす)→ 跳躍が消えて収束しやすくなる。政党数が動きの中で決まる様子を本気で見せるならこっち。 / B. 均衡は諦め軌道の時間平均で党数を出す(軽いが「モデルの動きの中で決まった」とは言いにくい)。所感は A。

5. 考察:なぜ「1強多弱」が出なかったか

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当初期待された「巨大与党+少数野党乱立」は、このモデルでは出ない。両制度とも最大党20%前後の横並びになった。原因は2つ。

図4: 擬似定常配置でのシェア分布(順位順)。小選挙区・比例代表どちらも最大党が20%前後で、1強が突出しない横並び。
図4: 擬似定常配置でのシェア分布(順位順)。小選挙区・比例代表どちらも最大党が20%前後で、1強が突出しない横並び。
① 投票が「正直(sincere)」だから。 今回は各有権者が常に最寄り党にそのまま投票する。 だが現実の小選挙区では「どうせ勝てない党に入れても死票」と考え、 有権者が勝てそうな上位2党のどちらか近い方に乗り換える(戦略投票=デュヴェルジェの心理効果)。 この乗り換えが無いので、小選挙区でも弱小党が地域で生き延び、比例代表とほぼ同じ多党状態になった。 1強を生む本体はこの戦略投票で、それを入れていないのが直接の理由。
② 大ブロックを1党が独占できていないから。 38%の中道保守ブロックに複数党が相乗りして票を割っている。 「先に入った1党が大ブロックを丸取りし、後発は割って入っても損」という 先行者の縄張り効果を入れると、1党が38%を独占=巨大与党になり、 残りは周縁の小ブロックに散る(=少数野党乱立)構図に近づくはず。
つまり(正直投票版の見立て): 局所最適が複数 → 政党が複数(コア仮説)はこの玩具モデルで再現できた。 だが「1強多弱」を出すには 戦略投票(①) が要りそうだ、という見立てになる。 → そこで実際に①戦略投票と、②塊を消す対照実験を回してみた。結果は次の §5.5。見立てどおりにはならなかった。

5.5 追加実験:戦略投票と「塊を消す」対照実験を実際に回した

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レビューで指摘された2つの穴——「塊6→党6は循環では?」「小選挙区→1強が再現できていない」——を、コードを足して実際に検証した(party_competition_v1.py --v2、出力 party_competition_v2.json)。結論から言うと、2つとも“期待した絵”にはならなかった。そしてその外れ方が、むしろこのページの主張を裏づけた。

実験A:塊を消す対照実験(循環を断つ)

「6クラスタを入れたから6党出た」が単なる循環なら、塊を消して有権者を一様分布にすれば党は減るはず——というのがレビューの想定だった。クラスタ情報を一切使わない一様分布の有権者で同じ手続きを回した(候補点・参入点もクラスタ非依存に切替)。

制度塊あり(混合ガウス6山)塊なし(一様分布)
実効政党数最大党実効政党数最大党
小選挙区(FPTP)6.5020%9.4213%
比例代表(PR)6.8222%9.9811%
図5: 対照実験。塊あり(青)と塊なし一様分布(橙)の実効政党数。一様分布のほうが党が多く、塊を消しても党は減らない。
図5: 対照実験。塊を消して一様分布にしても党数は減らない。むしろ増える(FPTP 6.5→9.4、PR 6.8→10.0)。
解釈:塊の“数”は党の“数”を決めていない。 塊を消したのに党は減らず、逆に増えた(上限10党に張り付いた)。つまり「塊6→党6」は循環ではなく、党数を決めているのは塊の数ではなく、許容度 R で決まる1党あたりの守備範囲 ÷ 空間の広さだと実際に確かめられた。一様分布では守備範囲が空間全体に均等に並ぶので、R が同じならむしろ多くの党で空間を分割できる。塊は「党がどこに立つか(クラスタに張り付く)」を決めるが、「何党立つか」は許容度/空間比が決める——本ページのコア主張が、対照実験で裏づけられた格好。

実験B:戦略投票(死票回避)を入れても二大化しなかった

小選挙区で各区の「正直投票なら上位2党」だけを当選可能とみなし、有権者はその2党のうち近い方へ乗り換える(デュヴェルジェの心理的効果)。これで「小選挙区→1強/二大政党」が出るかを見た。

FPTP実効政党数生存党数最大党シェア
正直投票(baseline)6.50720%
戦略投票7.23822%
図6: 戦略投票(赤)と正直投票(灰)のシェア分布。戦略投票でも最大党は20%前後のままで、二大政党化していない。
図6: 戦略投票を入れても最大党は ~22% のまま。デュヴェルジェの二大政党化は再現できなかった。
正直に言うと、これは“失敗”——再現できなかった。 戦略投票を入れれば小選挙区で二大化するはず、という見立ては外れた。実効政党数はむしろ微増(6.5→7.2)。 理由:戦略的足切りを各区ごとに独立にかけているため、当選可能な「上位2党」が区ごとに違う。A区では党1・党3、B区では党1・党5…と、全国で見ると多くの党が「どこかの区では当選可能2党」に入り、結局生き延びる。本物のデュヴェルジェ二大化には、全国で同じ2党に収れんする調整(政党ラベルの全国共有・選挙協力・資金/知名度による足切りの全国一致)が要る。区ローカルな心理効果だけでは足りない、というのがこの実験の学び。
2実験のまとめ:
  1. A(対照実験)は主張を補強した:塊を消しても党は減らない=塊数は党数を決めない。決めているのは許容度/空間比。「塊6→党6」の循環という批判は、この対照実験で外れる。
  2. B(戦略投票)は再現に失敗した:区ローカルな死票回避だけでは二大化しない。全国レベルの収れん機構が別に要る。看板「制度を比べるシミュ」の本丸(小選挙区→1強)は、本モデルでは依然として未達。ここは正直に穴のまま残す。

6. 本モデルの限界

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総括:この玩具モデルでは、有権者分布が多峰(塊が複数)のとき、小選挙区・比例代表のいずれでも各党が別々の塊に居着いた。 ただし「局所最適が複数あるから党が複数」と一方向の因果で言い切るのは弱い。局所最適は他党の位置で決まる内生量であり、党の“数”を上流で決めているのは有権者の許容度(どこまで離れた党を許容するか)と空間の広さの比である。形式的な N ≲ 1/τ は“発見”ではなく自明な上界(得票シェア総和=1 からの算数)で、天井の位置を示すだけ・メカニズムは説明しない。局所最適は「なぜそこに留まるか」を説明する近接メカニズムと位置づけるのが正確。 追加実験(§5.5)の結果は2つに分かれた:(A) 塊を消す対照実験では党数が減らず(むしろ増え)、「塊数が党数を決める」という循環的解釈は否定され、許容度/空間比が効くという主張が裏づけられた。(B) 一方、戦略投票(死票回避)を入れても二大政党化は再現できなかった——区ローカルな死票回避だけでは足りず、全国レベルの収れん機構が別に要る。「制度を比べて小選挙区→1強を見せる」という看板の本丸は本モデルでは未達で、ここは正直に穴のまま残す。残る課題は、全国収れん機構の追加と、ベストレスポンス連続化による収束性の確保。